2019年12月22日(日)
いつも、脳卒中ケア研究会をご支援いただきありがとうございます。
令和最初の研究会シンポジウム、第8回を令和元年2019年12月14日(土)に開催し、無事に終了いたしました。会場は昨年と同様『大阪産業創造会館』でした。会場としてはとても良いところですね。それと今年は初めて、研究会終了後16階のレストランで懇親会(ビュッフェ)を開催し、見晴らしの良い場所で夕暮れを眺めながら会員の皆様と講師の先生方と語り合うことができたのも良かったですね。
それでは遅くなりましたが、研究会シンポジウムの報告をします。
今回のテーマは「脳卒中患者の栄養 ―動ける身体を作る看護―」でした。
第1部:【教育セッション】
講師は山田佳孝医師です。山田先生は西宮協立脳神経外科病院の脳神経外科部長です。NSTのリーダーとしても毎日院内を飛び回っているそうです。またその他に関連病院でのNST講演や学術発表を行っており、2016年には雑誌ヒューマンニュートリションに「脳卒中急性期における体重変化について」を発表。2019年には日本静脈経腸栄養学会学術総会スポンサードシンポジウムにて「脳卒中急性期における栄養管理」を発表されるなど精力的に脳卒中患者の栄養について活動されています。今回はその内容を含めた講演を行っていただけるということでとても楽しみにしておりました。ご講演テーマは『脳卒中患者の今日的栄養管理』でした。そもそも栄養管理は大事なのか?という問いから、ヒトが病気と闘う以前に生きているだけでも栄養管理が必要という認識。次に、栄養不足とは?という問いから、身体の生理的現象の理論的説明があって、当たり前のことのように思いますがこうやって改めて言葉にすると人間にとって「食べること」の重要性が確信できました。具体的な栄養管理に関しては低栄養のスクリーニングから始まり必要栄養量の算出、具体的なメニューの決定ではタンパク質摂取の大事さ、そして栄養管理は運動、特に筋肉を働かせることと同時に実施していく。たとえ意識が不安定で呼吸器がついていたとしても動かす(座らせる/立たせる)、筋肉に刺激を与える(マッサージでもOK)ことを積極的にやっていくことが大切なのです。脳卒中患者でリハビリをしている場合は特に栄養不足に陥りやすく、リハビリ状況に対応して適切に栄養管理を行う重要性も理解できました。
<講演の様子>
栄養管理において医師はorderを出し、栄養士は献立を考える。しかし、患者が「食べる/食べられる状況か」は看護師のアセスメントとかかわりにかかっているので、「主治医に意見を挙げてほしい。我々はチームです」というメッセージが非常に印象的でした。
本当に勉強になった!改めて栄養管理の必要性や実際が分かりやすく、参加者の看護師の皆さんも看護活動のイメージがより鮮明になったのではないでしょうか。
司会の山居氏(甲南女子大学)
第2部シンポジウム
前半:シンポジストはお二人の脳卒中リハビリテーション看護認定看護師の方をお迎えしました。後半:教育セッションの山田医師も加わりシンポジスト3名と参加者の方々とのディスカッションでした。
前半のシンポジストお一人目は、應本勝美氏です。應本氏は多根総合病院でご勤務されています。應本氏には『発症から考える脳卒中患者の栄養』というテーマで、急性期病棟での実践例を紹介も織り交ぜながら話題提供していただきました。急性期での特徴の一つが、“長い絶食期間”です。それは脳卒中ならではというか、意識障害・重度の摂食嚥下障害・誤嚥による高度な肺炎リスク・排便コントロールの難しさ・症状の不安定なまま転院となる、といった要因が、この“長い絶食期間”を引き起こしているようです。しかし、だからといってそのままにしておくわけではなく、「そもそも脳卒中患者の腸管機能は正常である」ということを認識し、早期から腸管を使い、経腸栄養から経口栄養への移行を最短でスムーズにしていく栄養管理を実践しているのです。さまざまは栄養剤(成分栄養・消化態栄養・半消化態栄養)を病期に応じて適切に選択し、経管栄養を経口栄養への移行まで効果的に行う。「さっさと抜いて口から食べる!」「食べたら出す!」というメッセージには看護が「しっかり食べること」を引き受ける覚悟のようなものさえ感じました。そして、早期経口摂取につなげるために急性期であっても背面解放座位を積極的に取り入れているとのことです。また、お話に中で「前向きな胃瘻」という内容も印象的でした。あくまでも経口栄養確立までの栄養の取り入れ口という認識ですね。胃瘻からの栄養をしっかりと補給して体力を落とさずに経口摂取へのリハビリに取り組めるということです。胃瘻をネガティブではなくポジティブに経口栄養が確立すれば「さっさと抜去する」ということです。應本氏のお話で、急性期であっても経口摂取につなげる積極的な看護の重要性が再認識できました。
講演の様子
シンポジストお二人目は南 好江氏です。南氏は西宮協立リハビリテーション病院でご勤務されています。南氏には『回復期に考える脳卒中患者の栄養』というテーマで回復期での事例をご紹介いただきながら栄養管理の実際について話題提供いただきました。
回復期、それは活動期でもあるのですね。リハビリで消費するエネルギー量を加味した栄養管理というのが期待されること。ここにきてやはり患者の嗜好や食生活習慣といった内容も視野に入れた栄養管理、つまりかなり個別的な視点が重要になってくるということでした。回復期だからこそ、その人の活動内容をしっかりと把握しないといつまでも同じ栄養量では活動に対応する栄養管理にはならないのであって患者の身体状況のアセスメントはもちろん「食べられているか」といった摂取状況には看護師が責任を持たなければ適切な栄養を摂取することに繋がらないのです。脳卒中患者は嚥下機能障害を伴う場合は食形態や食事の回数を変更したり、栄養補助食品の必要性を判断し、最も妥当な補助食品の提案であったり、活動と栄養のバランスを査定し、排便コントロールもしていきます。その結果として看護師には、「体重を落とさない」栄養管理でリハビリが継続でき、その先の退院後の生活につなげるように「食べること」を支え、多職種とよく話し合う環境が重要であること、そして看護師は患者がどうしているのか「関心を持ち」「気づき」、なぜそうしているのかその「意図を知る」という看護の本当に大事なところをメッセージとして伝えていただきました。
後半のシンポジウムでは、3名の講師とご参加いただいた会場の皆様とのディスカッションを1時間ほど行いました。
会場からは以下のような質問や意見がありました。
・過剰栄養(over feeding)のアセスメントは?
・補助食品はコストがかかるので不十分な場合はどうしているか?
・急性期から施設などの転院の場合補助食品は継続が難しいのでは?
・補助食品は甘くないものでおかずの一品として用いると効果的では?
・治療食優先の考え方に対して、今が栄養を付けて体重を増やす時期であることの判断において治療食であったとしてもタンパクを追加していくことが有効な場合もある。
・胃瘻造設の判断が遅いために経口摂取が進まないまま転院となった事例もある。経管栄養しながらの経口摂取訓練は難しいことを認識しておきたい。
質問にお答えいただく山田先生
司会の日坂氏(岐阜大学)、岩佐氏(四天王寺大学)
ディスカッションはおもしろかったです。臨床の現実的な対応や判断の多様性も確認できたと思います。ありきたりの言葉ですが、本当に有意義な時間でした。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
それでは、来年の第9回に向けて皆様のご支援をお願い致します。
研究会の説明:山本直美氏(佛教大学)
閉会のあいさつ:会長 登喜先生(千里金蘭大学)
また、研究会には千里金蘭大学の2年生が参加致しました。後日、未来の看護を担う学生から以下の感想が寄せられました。
栄養のアセスメントや評価について詳しく学ぶことができ、とても参考になりました。特にディスカッションでは臨床での出来事、問題(栄養補助食品の確保や、病院食とのバランスを各病院でどのように調整しているのか、など )を用いて専門職同士で意見交換・情報共有をしており、その場にいる全員がより良い看護に繋げられるような場であると感じました。今回の学びを今後の学習、病院実習に繋げ、機会があればまた研究会に参加させて頂きたいと思いました。